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○○● コラム [鵞流峡]
飯田への観光客の大半が訪れるであろう天竜川の舟下りは,三遠南信を代表す
る観光名所のひとつ。この舟下りには二つのコースがある。ひとつはJR飯田線
の天竜峡駅付近から二駅先の唐笠に至るもの。もうひとつは,飯田市街の東に
位置する弁天港から時又港までのものである。
国の名勝に指定されている「天竜峡」を通るのは前者。一方,後者も深い渓
谷を通るが,実はこちらは正確には天竜峡ではなく,独自の名を持っ トいる。
それが「鵞 ャ峡」だ。天竜峡に優るとも劣らない風雅な響きである。鵞流峡と
呼ばれる渓谷は,飯田市中部に架かる南原橋から時又の天竜橋まで,約二キロ
にわたって続く。名前は「鵞湖からの流れが育んだ峡谷」の意味。「鵞湖」と
は天竜川の源流である諏訪湖の別名。これはそもそも中国に実在する美しい湖
で,諏訪湖の景観が似ていることから,湖近くに住む僧侶が中世に呼び始め,
やがて広まったとされる。
天竜峡は弘化四年(一八四七)に漢学者の阪谷朗廬による命名と,ルーツが
はっきりしている。これに対し鵞流峡の名は,いつ誰によって使われるように
なったのか,確かなことはわからない。古くは高森町の市田から三遠信の国境
を越えたところまでを「天竜峡谷」と称していた。昭和九年,「天竜峡」が国
の名勝に指定されたが,その範囲は姑射橋付近から下流約一キロあたりまで
で,上流部は含まれない。鵞流峡の名はおそらく戦後,国指定名勝の範囲と区
別する意味で,使い始めたのではないだろうか。せっかくなので,この機会に
天竜舟下りを体験してみた。弁天港で救命具を着用してから乗船する。水神橋
を過ぎるまではゆったりした流れ。舟を漕ぐギーコギーコという音を聞きなが
ら,風越山や近寄ってくる鷺を眺める。なんとものんびりした川旅だ。
十五分ほどで鵞流峡入口の南原橋を過ぎると,穏やかな風景は一変,渓谷に
突入した。流れの急な箇所が多く,水飛沫から身を守るため,ビニールシート
を被るよう船頭さんからたびたび指示が出る。急流に突っ込み,上下に揺れ
る。けっこうスリルがあって面白い。
渓谷を抜け視界が広がったところで,終点の時又港に着く。乗船時間は三十
五分。正直もっと乗っていたい気もしたが,浜松まで下った剛健なウェストン
にほど遠い柔な現代人には,これくらいがちょうどいいだろう。
春夏秋冬叢書 東三河&西遠・西三河・南信応援誌「そう」11号「流」より
http://richmama.itigo.jp/kh14_22/
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